衆議院-法務委員会 2004年(平成16年)06月01日




 「国際捜査共助法及び組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律案」に対する質疑

○本多委員

 民主党の本多平直でございます。

  きょうはこの国際捜査共助法の改正案について質問をさせていただきたいと思うんですけれども、国際捜査の共助というのがどんな役割を果たしているのかという資料をいろいろ読ませていただいた中に、私の選挙区であります埼玉県熊谷で殺人に遭った方の御遺体が中国まで運ばれてしまって、その御遺体を捜すときの中国当局と日本当局の協力が功を奏したおかげで、無事というわけじゃないんですけれども、その御遺体が発見できて捜査が進展したという例が近時の一番重要な例として載っていたのを読みまして、本当に、国際間でいろいろ価値観が違ったり仕組みが違う中で御努力をされている法務省と警察など関係の方々には心から敬意を表したいと思います。

  その中で、こういう方向を、どんどんどんどん協力の仕方を見直して、役所と役所のできるだけスピーディーにやっていくという方向性にはおおむね賛成なんですが、双罰性という概念、今回この法律を勉強する中で、これについて緩和されていくという方向性が指し示されているんですが、私は本当にそれでいいのかなという疑問を少し感じましたので、その観点から御質問をさせていただきたいと思います。

  そもそも双罰性というのはどういう概念なのか、お答えください。

○野沢国務大臣

 国際的な犯罪の捜査を進める上でそれぞれの国が両方とも共通の処分をする、こういったことが整っているところが双罰性あり、あるいはその必要がないところは双罰性不要ということで処理をしているところでございます。

○本多委員

 どうしてそういう概念が今までは必要とされてきたのか、お答えください。

○中野大臣政務官

 今の御質問でございますけれども、例えば我が国で行われたといたしましても犯罪にならない行為、例えばアメリカでいいますと、単純な児童ポルノの所持だとか被告人による偽証とか、いろいろ問題がございますけれども、そういうような行為について捜査機関が証拠の収集を行って外国に提供することは、国民感情に反するおそれがあるということから一般的には適当でない、そういうことが当時から言われておりまして、そういう点からこのような考えになったと思います。

○本多委員

 今非常に政務官からいいお言葉があったんですけれども、日本では犯罪ではないものの捜査に協力するというのは、国民感情として余り納得はいかないんですよね。そうですよね、当然。日本では犯罪じゃないことの捜査をアメリカが一生懸命するのは勝手だけれども、それに協力するということは、日本で犯罪じゃないんだから、ない。 その条件を緩和していこうとされているのがこの今回の法律、条約なんですが、なぜなんでしょう。

○実川副大臣

 近年、我が国におきましては外国人による犯罪が増加しております。また、世界的に見ても国境を越えて敢行されます犯罪が増加しておることは委員御指摘のとおりでございますけれども、このような事態に有効に対処するためには、諸外国との捜査協力を一層推進し、また捜査共助の迅速化を図ることの重要性が極めて高くなってまいっております。

  そこで、我が国政府は、米国との間におきます捜査共助の実効性をより一層高くするために、刑事に関する共助に関する日本国とアメリカ合衆国との間の条約を締結しまして、条約に別段の定めがある場合には、双罰性の有無にかかわらず共助を……(本多委員「時間がないんで、済みません」と呼ぶ)そういうことで、国際共助法の関連規定の改正を行うこととしたものでございます。

○本多委員

 ちなみに言っておきますけれども、今、泉議員の質問を聞いていらっしゃいましたか。外国人の犯罪はふえているんですか。私はそんなこと、委員の御指摘のとおりと言われると困るんですが、言っていませんので。訂正してください。

○野沢国務大臣

 今、泉委員からいただいたこの資料でございますが、この図二にございますように、一並びに二ともに件数そのものはしっかりふえております。

○本多委員

 そこはいろいろな言い方ができるということを先ほど泉議員は質問していて、それを一方的にだけとらえて、委員も御指摘のとおりとか、そんな勝手なことを言わないでください。

  それで、双罰性は国民的な感情に沿った仕組みなんですね、双罰性を国際共助に要求するのに。今の副大臣のお答えの中には、ちょっと、なぜ今回双罰性を緩和するのか、全然お答えになっていないんですが、もう一度お願いします。

○実川副大臣

 条約を締結する場合には、双方の締約国の法制度の相違、また国民的感情等にかんがみながら、どの範囲での共助を実施するか、どのような場合に共助を拒絶するか等について、外国との間で詳細に取り決められております。我が国の法体系上、共助をする場合が相当でない場合には、共助の義務を負うことがないように取り決めることもできることから、条約に別段の定めがある場合には、双罰性の有無にかかわらず共助を実施することができるようにすることは、問題ないというふうに思われます。

  また、我が国で犯罪とならない行為についての共助であっても、共助の実施が任意処分により可能である場合には、そもそも処分の対象者の任意の協力があることから、その権利保護の観点から見ましても、条約の要請に従って共助を実施することに問題は生じません。

  また、他方、強制処分が必要な場合におきましても、裁判官において令状を発するか否かの審査を行う上……(本多委員「ちょっと、質問に答えていないよ」と呼ぶ)日米間に、共助の場合に、条約においては個々の具体的事案に応じて国民の権利保護に配慮をし、双罰性がない場合には強制処分等を行うか否かは我が国に裁量権があるようにしているものでありまして、この点も問題ないと思われます。

○本多委員

 副大臣の説明ときのう役所の方が言っていたのは若干違って、何か国際的な趨勢だという説明を受けたのでそういう答弁がいただけるのかなと思って聞いたので、違うということなので、それはそれでいいです。

  外国では、今、双罰性の要件というのがどういう状況になっているんでしょうか。これはしっかり堅持、共助を行うときに双罰性なんか要らないよという国と、いや、それでも双罰性は要るんだよという国、両方あると思うんですが、どういうふうに法務省としては把握されているでしょうか。

○中野大臣政務官

 外国の例について申し上げますけれども、あらゆる国について調査したわけではございませんけれども、米国だけではなしにフランスとかカナダ等におきましても双罰性は共助の要件とはされておりません。また、オーストラリアとか韓国、英国及びドイツも双罰性は原則不要としておりまして、これに対して、イタリアとかタイでは双罰性を原則必要としておりますけれども、条約で別に定めれば不要という法制であるということを承知しておりまして、今回の法案におきましては、日本においてもこのような趣旨で今御提案しているわけでございます。よろしくお願いします。

○本多委員

 そういうことなんですよね。国際的には双罰性を必要としない国が多いし、イタリアやタイは双罰性を要るとしていても条約では例外にできるということなんで、そのぐらいには合わせようという今回の提案だと理解をしています。

  しかし、私は、ちょっと賛成反対は別として、疑問を呈したいということなんです。ですから、疑問として聞いていただきたいんですけれども、本当にそういう国際的な流れに沿っていいのかなということなんです。つまり、捜査の、何を犯罪とするかというのは、国家にとって本当に大事な部分だと思うんですね。まさに法務省が担っている刑事法制の根幹だと思うんです。そして、今回アメリカと日本の関係なんですが、アメリカで犯罪になって日本でならないもの、日本で犯罪になってアメリカでならないもの、例えばどんなものがありますか。

○実川副大臣

 我が国で犯罪とされていて米国で犯罪とされていないものという御指摘でございますけれども、米国には連邦法のほか各州に法律があります。これは御指摘のとおりでございますけれども、すべての法律を調査したわけではありませんが、例えば我が国では犯罪とされていて米国では犯罪とされていないものにつきましては、けん銃の単純所持あるいは覚せい剤、大麻の自己使用行為、または信書の隠匿・開封行為などがございます。

○本多委員

 逆はいかがでしょう。

○実川副大臣

 逆でありますけれども、例えば、我が国では犯罪とされていないけれども米国では犯罪とされているものにつきましては、陪審員に対します影響力の行使、または被告人による偽証、さらには児童ポルノの単純所持などがあると称されております。(発言する者あり)

○本多委員

 今、後ろからと言ったらいけないんですね、戸別訪問とかがあるのかないのかわからないです。 例えば、脱走罪というのはどうですか、軍隊からの。

○野沢国務大臣

 突然の御質問ですので、調べましてまた御返答いたします。

○本多委員

 きのう通告してあるんですけれども。

○野沢国務大臣

 外国の法律の適用の問題でもございますし、全く事実の具体的な問題を離れての成否をここでお答えするのは差し控えたいと思います。

○本多委員

 具体的な事実というのは何ですか。私は、軍隊からの脱走罪というのは、これはどっち、日本にはあるんですか。

○野沢国務大臣

 その事柄だけでは抽象的でございますから、その辺についてのしっかりした事実関係、そういった具体的事実がやはり必要であろうかと思います。

○本多委員

 わかりました。 それで、私が言いたいのは、犯罪が違うところというのは、実は、別に殺人というのはどっちでも罪にできるんですね。例えば、だれから見ても、強盗とか強姦とか、本当にそれはもうだんだんだんだん、特に、もちろんアラブの一部の国とかには、日本では犯罪じゃないようなことが犯罪とされている極端な部分はあるんですが、おおむね日本とアメリカでは共通しているわけですよ。ですから、わざわざ双罰性の要件なんか緩和しなくても、ほとんどの犯罪においてそんなに支障はないわけです。

  そして、では残されたところはどんなところかというと、今、本当に具体的に出たのは、例えば、単純にけん銃を持っているのが、日本では犯罪だけれども、アメリカでは違う。児童ポルノというのは、アメリカでは持っているだけで犯罪になるけれども、日本ではならない。

  これは、非常にミクロではあるんですけれども、実は、御存じのように、けん銃を持つことを違法にするかどうか、アメリカでは大変な議論を、二分してやっているところなんです。それから、例えば児童ポルノの話も、私も今回党内で議論をしました。これを、本当に違法にして、さらに犯罪にしようという声もたくさんあるんです。ただ、それは、捜査の面でいろいろ行き過ぎが生じたりするのではないかというおそれから、私なんかはそこは消極なんですよ。単純に持っているだけを犯罪にまでしちゃったり違法にしちゃったら、これは、パソコンをあけたら大変なことになる。これは、意見は日本の中でも分かれているんですよ。

  こういうことを一生懸命国会で議論して、それからアメリカの方もけん銃のことを議論して、それを犯罪にするかしないかというのは、これはまさに国家の大事なポイントとして決めていることなんですね。それを、違うものを別に共助する必要はないんじゃないか。それはおおむね、別に殺人とか強盗とか、大きな犯罪に関して関係するわけではないので、今回この要件を緩和する理由がよくわからないんですが、そこはいかがでしょうか。

○野沢国務大臣

 共助をする、しないの問題もいろいろございます。それから、双罰性の有無についても、国によっての国情の違いもある。これは、委員今御指摘のとおりの状況にございますが、今回、私ども、双罰性の要件を緩和することにつきましては、今までのこの法律の仕組み、それから証拠の取りそろえ、また、それに対する解釈、適用の問題等々、相当慎重に審議をして取り組んできたわけですが、条約でそれを明確にすることによりまして、これらの検討に要する時間を短縮しまして迅速な捜査が行われる、ここに目的があるわけでございます。

○本多委員

 もちろん、捜査の迅速さという説明も受けましたし、今大臣からもそういう御答弁をいただきました。

  迅速さは必要だと思うんですが、今後、ますます国家間でこういう刑事の部分というのが近づいていくというのは、ある意味いい面もあるんです。ただ、残された違いというのは、まさに国家がある限りそれは大事にしていく。それは、一方の国では犯罪になること、違う国では犯罪にならないものというのが残るからこそ国家が違うという部分だと思うので、そこは一概に、もちろん犯罪人の引き渡しなんかに関しては双罰性がしっかり残っているということですからそこは安心しているんですけれども、捜査の協力ということだって、例えば児童ポルノの単純所持の捜査、これはアメリカでは犯罪ですから、では日本でも協力してくれというと、日本人のパソコンをどうあけて、つまり、私が懸念をしているような懸念が生じてくるわけなんですよ。

  ですから、そこは、国家として毅然として、何か本当に大きな支障があるならもちろん双罰性の要件を緩和してもいいです。これで極悪人が逃げちゃう、こういう要件を緩和しないとアメリカと協力できない。本当に重要な要件があるんだったらいいんですが、何かついでのように、国際捜査共助法の二条ですから、二条を変えるというのは、やはりある種法律の大きなところを変えることになると思いますので、そこは重要な変更をしていくんだという覚悟というか、それはあるんですかね、大臣として。

○野沢国務大臣

 今、具体的な課題として、委員、児童ポルノの問題を御指摘されましたが、米国では処罰されてはいるものの、我が国では処罰されていない、こういう行為についても常に共助を実施することは不当だということにはならないと思います。

  なお、共助を実施することは、それが任意の処分により可能である場合には、処分の対象者の任意の協力があるわけですから、その実施は不当とは思えない。他方、強制処分が必要な場合については、例えば、対象者が任意に証拠の提供に応じる用意があるのに形式的に捜査機関に対して令状の取得を求める場合もありまして、あらゆる場合でも、強制処分により共助を実施することが不当とは言えないと考えております。

  なお、日米刑事共助条約においては、双罰性がない場合の強制処分の実施は我が国の裁量権にゆだねられているところでございます。

  いずれにいたしましても、共助を行うかどうかということにつきましては、要請された証拠の重要性、処分を受ける者の不利益の有無、程度などを総合的に勘案しまして慎重な運用を心がけてまいりたいと思っております。

○本多委員

 ぜひとも、双罰性のないものに関しては、私の考えとしては、今回この条約、法律がどうなるにせよ条約はもう結んでいらっしゃると思うんですが、慎重な共助の対応というのをしていただいた方が、私は、それは国家というものが残って、刑事法制をそれぞれ独自に持っていくということの価値はそこにあるのではないかと思いますので、そこはしっかりと御理解をいただければと思います。

  先ほどの脱走の話は後ほど調べていただくということなんですが、実は、これはある意味、けん銃の所持と児童ポルノの単純所持というのは、ミクロというとけん銃の方は大きい気もするし、児童ポルノも重大なんですけれども。

  例えば、日本とアメリカで軍隊を持つか持っていないかという違いがあるわけですね。自衛隊にももちろん職務怠慢とかそういう犯罪はあるんでしょうけれども、軍隊から脱走するのと、また自衛隊という組織からというのは、それは本当に双罰性と言えるのかどうか私は疑問ですので、そういうこともしっかりと検討して、今話題になっているいろいろな課題にも対応をしていただければと思います。 以上で私の質問を終わります。

○柳本委員長

 御苦労さん。 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。