衆議院-厚生労働委員会 2005年(平成17年)03月30日






「新型インフルエンザ対策」について質問を行いました。

○本多委員

 民主党の本多平直と申します。 きょうは、初めて厚生労働委員会で質問をさせていただきますので、大臣、どうぞよろしくお願いいたします。

私は、きょうテーマを一つだけに絞っております。新型インフルエンザへの対策、日本としてどう取り組んでいるのかという課題でございます。

この委員会は専門家も多いのでございますが、新型インフルエンザというと、普通に今もはやっているインフルエンザと言葉が似ているのでどうしても誤解をされがちでございますけれども、その被害の大きさ、例えば亡くなる方の多さでも全く違うものであるということを、まず委員の皆さん、そして大臣にもしっかりと御認識いただきたいと思います。

例えて言えば、第一次世界大戦のときに、大体あのころは人口が今の約三分の一ですけれども、その当時に三千万人から四千万人が世界で亡くなった、そういうものが数十年単位で世界では繰り返されている。それが鳥インフルエンザと関連がある、変異してきて起こる可能性があるわけですから。ちょうど鳥インフルエンザの流行が去年もありました。そして、今もまた北朝鮮などで報告をされています。大変危険な状態になっているという認識をまずしっかりと持っていただきたいというのが一点でございます。

そして、これの発生を防ぐことはできないわけですから、世界各国、起こったときにできるだけ被害を小さくする、そういう観点で対策に取り組んでおるところでございます。

それで、どれぐらいの被害が予測されているのかということをまず私の方から申し上げますと、例えば第一次世界大戦のころのスペイン風邪と同程度の場合、これは国立感染症研究所の学者の方の予測でございますが、少なくとも人口の約二五%、つまり、初めてかかるわけですね、今まで抗体がないわけですから、理論上一〇〇%の方がかかってもおかしくないけれども、過去の例からいうと、国民の大体二五%から四〇%がかかる、世界的にもそういうことになります。そして、世界でいうと六千万人が死亡するという予測の数字が国立感染症研究所の学者さんで出ている。そして、もっと強力なものが出た場合には、死亡者がそれこそ億という単位での予想も出ているということもまず御理解をいただきたい。

そして、そういった予測以上に、皆さんが一応これで検討された小委員会での予測でも、日本国に限って言っても、患者数が、少なくても約千三百万人、そして多いときは二千五百万人。そして死亡者数も、少ないときが六万八千人、多いときは十六万七千人。この十六万人という数も、スペイン風邪タイプではなくて、少し前にもうちょっと弱い新型インフルエンザ、香港風邪などがはやったんですが、そのときの少な目の数なんですね。

こういった大変に大きな被害が出る可能性のある新型インフルエンザの対策についてお伺いをするということなんですが、実は、大臣にお伺いしたいんですけれども、私は安全保障委員会などにも属していまして、いろいろな危機管理の話をします。日本に今起こり得る危機として、この十六万人、人が亡くなるということだけに限って言うと、例えば地震のこともいろいろ議論されていますけれども、これだけ、十万のオーダーで人が亡くなるということを政府が、政府の研究会が認めているような危機というのは、ほかにありますでしょうか。国務大臣としてもお答えをいただきたいんですが。

○尾辻国務大臣

 今頭に浮かびますのは、大型地震でかなりのそういう危険を予測しておると思いますけれども、今私が思いつくのはそれぐらいでございます。

○本多委員

 そのとおりなんですね。大型地震で大体、東海地震でも一万を超えない。そして、東南海からあっちの方で起こったときにやっと二万弱の数字を政府でも予測している。政府の予測ですから、私たちから言うとこれでも少な目だと思うんですけれども、それでもその程度。ですから、これでも本当に日本にとっては大危機なわけですけれども、その十倍の規模のことを厚生労働省さんは自分たちがつくった検討会で死者を予測されているということをまず認識していただきたいと思います。

それで、その対策なんですが、これが非常に私、納得がいかないんです。

幾つかの対策がありまして、起こったときに、治すわけにはいかないけれども症状を軽くする、まず薬を飲むという方法と、それからワクチンという二つの方法があります。ワクチンの方は、つくるまでに、起こってから何カ月か時間がかかります。ですから、ワクチンも大切な論点なんですが、ひとつ薬という論点とワクチンという論点があるのをまず御理解いただいて、二十分しかないのでワクチンはきょうはおいておいて、薬の方、当座、被害が軽く済む、亡くなる方を減らす、特にお医者さんなんかが亡くなったら大変だから、お医者さんなんかにはしっかり薬を飲んでもらう、その薬の話です。

これを世界的にもちゃんと備蓄しておけということがWHOでも言われております。それで、この研究会でも、しっかり備蓄をせよという、私から見ると少ないんじゃないかという数ですけれども、しっかり備蓄の計画が出ました。多分これにも基づいてだと思うんですが、厚生労働省さんとしてはしっかりと予算で概算要求をされたはずですけれども、今どうなっているかというよりも、まず、どんな概算要求を予算の査定の前にされたのかという、概算要求の方はおわかりになりますか。ちゃんと通告はしてあるはずでございますが。

○尾辻国務大臣

 細かな数字は今探しておりますけれども、大きく申し上げたいと存じます。 まず、私どもとしては、二千五百万人分の備蓄をしたい、こういうふうに考えておりまして、二千万人分が流通在庫としてある。それで、五百万人分を国が三分の一、都道府県が三分の二という割合で、足らない分が五百万人分ですから、これを新たに備蓄したいという考え方で概算要求はいたしたところでございます。

○本多委員

 そのとおりです。この厚生労働省の概算要求にも私は後からけちをつけたいんですけれども、それが財務省の切り捨てによってどういう予算に今回の予算でなっているのか、厚生労働省、大臣で結構ですからお答えください。

○尾辻国務大臣

 六十万五千人分を五年間で備蓄するという予算になっております。

○本多委員

 そうなんですね。まず最初のところで、私はそれでもいろいろ問題がある厚生労働省の概算要求、これは四億三千万円なんですよ。日本全体の予算からいってそれ。それを財務省というところは一億五千万円に削ったわけです。 それで、私は、財務省のこういう査定というのは常に批判するわけじゃ当然ありません。むだ遣いを削らなきゃいけない、重要な役割を果たしているわけなんですけれども。事これにおいてこういう、人数ががくっと減っているわけですから、そのこと自体ももちろん問題なんですが、もう一点、今回、財務省によって削られて財務省によって押しつけられたときにスキームが変わっているんですよ。では、どういう人なんですか、この六十万人というのは。

○尾辻国務大臣

 この六十万五千人がどういう内訳になっておるかといいますと、まず診療等に当たっておる人たち、この人たちがまず頑張ってもらわなきゃいけない。人を助ける側の人ですから、助ける側が、俗っぽい言い方ですがやられてしまうというのは困るということで、まずその人たちが二百四十二万一千人おる、大体そんな数字でありますが、先ほどの二五%という数字がありますから、この人たちも二五%がかかるという前提で、二五%を掛けての数字。 それから、六十万五千人のうちに、あと、社会機能維持、自衛官であるとか国家公務員等でありますけれども、どうしても社会機能を維持する人たち、この人たちもまずということでその六十万五千人を計算しておる、こういうことでございます。

○本多委員

 大臣の御説明のとおりなんですけれども、私、これはびっくりしたんですよ。つまり、人数を減らしただけだったら、財務省がよくやっている話で、そうかなと思うんですけれども、その減らす理屈、この二百四十万人分しか薬が要らないという理屈が、大臣、今の大臣がおっしゃったうちの、二百四十万のうち二百三万人はいいんですよ、医療従事者だから。まず医療従事者が大変なことになっちゃったら大変だから、まず医療従事者に薬を飲んでしっかりしてもらう、これは賛成です。自衛隊まではいいとしましょう。

ところが、この財務省の足し算には国家公務員の内部部局というのが入っているんですね。三万八千人、これは何なんですか。これはどういう方たちだと思いますか。

○尾辻国務大臣

 これは社会機能維持ということで上げておるわけでございますが、手元にあります資料で申し上げますと、自衛官がまず二十五万三千人、それから内部部局が今お話がありましたように三万八千人、それから治安関係、海上保安官等でありますが、これが五万人、入管、税関等が一万三千人、それから国会等として三万二千人、こういう内訳になっておるところでございます。 これを社会機能維持としてどう判断するかだ、こういうことであろうかと存じます。

○本多委員

 今、国会等三万二千人というのは、委員の皆さんも大臣もわからないと思うんですけれども、裁判所の職員とか全部です。国会職員、国会議員も入っているそうです、ありがたいことに。こういうのを足して三万二千人だそうですけれども、これは、社会機能の維持ということで足し算するとしたら、なぜ警察、消防が入っていないんでしょうか。

○尾辻国務大臣

 警察の方は都道府県で備蓄すべき数の中に入れております。

○本多委員

 ここからは厚生労働省の概算要求もおかしいという話に戻るんですが、実は、厚生労働省の最初の概算要求、額が大きいことは私は評価します、財務省が査定する前より。

しかし、これも三分の二は県でやってくれというんですよ。実は、では県でどれだけやっているかをチェックする仕組みはあるんですかといったら、ないんだそうですね。つまり県にお願いしているだけなんですよ。必要な量とこの報告書で出しておいて、三分の一は国でやるけれども、三分の二はこの財政難の県でやれと。それは、知事さんが一生懸命かどうかで、群馬県にはたくさん薬があるけれども埼玉県にはないとか、こういう状況が想定され得るわけですよ、この厚生労働省の最初のスキームでも。

それから、この財務省の、国土交通省の役人とか経済産業省の役人とか、こういう時点で社会機能維持に役立つと思えない人の人数はカウントして、そして警察、消防は、埼玉県は埼玉県でやれ、神奈川県は神奈川県でやれと。私は、これだけの多くの方が亡くなる感染症の対策として、本当に十分なのかという非常な危機意識をこれを聞いて持ちました。

それで、きょうは財務副大臣にもお越しをいただいています。細かな査定に御本人が携わったわけではないと思うので追及しませんけれども、与党の政治家として、まして人間をとても大切にされていると私は思っています連立与党の副大臣でございます。この査定、私の今の説明を聞いてどういう感想をお持ちになられるか。そして、次も副大臣が副大臣として予算の査定にかかわられるとしたら、こういうスキームで本当に我が国の新型インフルエンザ対策がいいのか、そこの感想をぜひ副大臣にお聞かせいただきたいと思います。

○上田副大臣

 お答えをいたします。 十七年度の予算の内容というのは今厚生労働大臣の方から御説明があったとおりでございますけれども、社会機能の維持や国全体の医療体制の確保などといったところに、最小限のものに限って国として計上させていただいたわけでありますが、この内容につきましては、予算編成の過程で厚生労働省ともいろいろと御相談をさせていただきながら決めさせていただいたものでございます。

十八年度予算のお話でございますけれども、まだ十七年度予算の執行もされていない段階でありまして、これから、むしろまずは厚生労働省の方からどういうような御要求が出てくるかということを踏まえなければいけないわけでありますけれども、よく相談させていただきながら対応していきたいというふうに思っております。

○本多委員

 今のは役所の方が書いた答弁に沿って言われたと思うんですけれども、副大臣、政治家として本当にこれでいいと思われるかどうか、ぜひちょっと御感想をお聞かせいただけますか。

○上田副大臣

 もちろん、今委員からいろいろと御説明があったように、大変重大な問題だというふうには考えております。ただ、やはりこれは、国の役割、地方の役割というのもあるわけでございますし、それぞれが責任を持って対応するということが重要なのではないかというふうに思います。

もちろん、これは人の命にかかわることでありますので重要な問題であるのはよく理解をいたしますけれども、ただ、では、それは国が全部面倒を見て、予算を全部つければ解決するのかという問題でもないのではないのかなというふうに思います。

そういう意味では、厚生労働省においても、また我々財政当局においても、地方ともよく相談をさせていただきながら今後対応していかなければいけないことだというふうには思っております。

○本多委員

 さっきの国家公務員とか、海上保安とか入管とかはいいとしても、中央官僚にというこのリストなんですけれども、これ自体も実はもっとおかしいことがありまして、では本当にこの人たちに行き渡るのかといったら、実はこの量を確保しているだけで、本当にお医者さんや看護婦さんや、皆さんが大事だと考えている自衛官や中央官僚に行くかという保証はないそうなんですね。

では、何のためにその数字を出しているのか。単に数字を削るための材料としてこれを出してきたとしか思えませんので、副大臣、財務省の中でもこういう査定のための査定のようなことを、ほかの分野ではしてもいい場合はあると思いますが、こういう人の命にかかわる、ましてや国家の危機にかかわるところではぜひしないでいただきたいということをしっかりお願いしたいと思います。

そして、時間がなくなってまいりましたが、実はこのリストの問題にも絡むんですけれども、これは、私なんかは、予算で、つまり十億の単位にいっていないんですからね。頑張ったとしても、私が理想論を言ったとしても百億の単位なんです。皆さんが、いろいろ野党が批判しているような、新幹線だとか関空だとか、そういうのに比べると、ミサイル防衛もそれは大事かもしれません、人の命を救うために。ミサイル防衛にもすごい予算がついていますね、今度審議しますけれども。一千億円を超えているんですよ。それで、それに対してこれは一けた億の数字の話なんですよ。

でも、それでやったとしても、順番という問題はどうしても出てくるんです。つまり、どういう人を先にやるかということ、国民の理解が本当に得られるのか。つまり、警察官、医療従事者まではいいとしても、では、本当にその後の順番づけをどうするのかということは、実はこれが起こってからだと当然パニックになります。自分がかかっている、自分の家族がかかっているときにこういう議論をしてもパニックになりますから、そういうことも、例えばトラックの運転手さん、流通に携わる方々、こういう方々は国家にとって大事だと私は思います。

しかし、これは本当に専門家で早目にじっくり検討しなきゃいけません。こういうことをしっかりと事前に検討していただけるのか。こういう中途半端な量なんですから、皆さんの予算は。私の提案は、もっと大きく予算でとるべきだと思います。韓国など、人口比でいうと日本よりずっと多い備蓄をしようとしているんですね、国家として。ですから、私は量でカバーするわけだと思いますが、皆さんのようにこういう中途半端なスキームでやるという場合には、その順序をどうつけるかという厳しい問題が出ます。こういう検討を事前にしっかりする部署をどこかへ設けていただけるのか。

もう一点は、WHOは、こんな問題は厚生労働省だけでは当然対応できません、省庁横断のしっかりとした国家での委員会みたいなものを事前につくっておけと。事前につくっておいてそこで研究をしておく、そしてもし事が起こったらそこが対策の中心になって進めていく、こういう組織をつくるべきだという勧告を日本にもしてきていると思います。

この二点、薬の優先順位の問題をどこかでじっくりと検討する検討会を設けるべきではないかという点と、WHOの勧告に従って省庁横断の連絡会をつくるべきではないかという二点、これはいかがでしょうか。

○尾辻国務大臣

 今お話しいただきましたように、抗インフルエンザウイルス薬というのは、発病以前に行うワクチンと異なりまして、既に発病している方に投与するものでございますから、ワクチンと同様の優先順位をつけておくということが大変難しい問題であるとは認識をいたしております。

ただ、特にインフルエンザに罹患した場合には、重症化しやすい方等への優先投与が可能かどうか、そうしたところが問題だと思いますから、専門家の御意見もお聞きしながらこれは検討すべきことだというふうに考えておるところでございます。

それから、二点目でございますけれども、厚生労働省といたしましても、関係省庁と連携をいたしまして、新型インフルエンザの発生に備えますとともに、御指摘の連絡会議についても関係省庁と十分協議をしてまいりたいと考えております。

○本多委員

 この件は、やっていただけない限りまたしつこく質問をし続けますので、ぜひしっかりと取り組んでいただきたいと思います。そして、これは実は、日本だけで私が言うような理想論で対策をしたとしても、では、薬を準備できない途上国はどうするのかという問題が世界的には発生をしてきます。大変大きな問題ですので、ぜひとも国内だけでこういう、もちろん薬だけでは完全ではないわけです、ワクチンも、両面でやらなきゃいけない、さまざまな問題がありますので、ぜひ危機感を持ってしっかり取り組んでいただければありがたいと思います。 きょうは、ありがとうございました。